蔵書の概要

蔵書

 図書の整理は,和洋書および主として辛亥革命以後の中国書については日本十進分類法により,漢籍を中心とする蔵書は別に定める五部分類法によっている。それは,中国の伝統的な書籍分類法である四部分類法を基本にした独自の分類法であって,経学・史学・諸子・詩文の書物をそれぞれ収める経・史・子・集の四部の他に,各部にわたる書物を収める叢書部を置く。叢書部の漢籍の多いことが本所の蔵書の特色であり,それがまた独自の分類法を定めることにもなった。

 旧東方部では,前身の東方文化研究所の蒐集に係る図書が根幹となっている。大部分は漢籍であるが,その基礎は開設当初に,当時,天津にあった武進の陶湘氏の蔵書27,939冊を購入したのがはじめてである。とくに叢書が多かったので,各時代,各地方の著作の精萃を網羅できた。研究所の漢籍蒐集は,まず清朝の研究業績を網羅し,その後旧刻善本に及ぼうという方針が立てられた。こうして1948年3月末には漢籍97,272冊に達し,ほかに東洋学関係の和書は9,313冊,洋書は1,439冊であった。一方1949年4月の統合の際には,旧人文科学研究所の漢籍が47,028冊あり,その中には「村本文庫」,「中江文庫」が含まれていた。「村本文庫」は,元大阪朝日新聞社員村本英秀氏(後に中田と改姓)が1941年1月寄贈されたもので,ほぼ四部にわたり837部8,484冊あり開設当時の研究所に貢献した。「中江文庫」は,中国にあること殆んど30年であった中江丑吉氏の旧蔵書で,歿後中江善後委員会が1944年9月漢籍355部6,037冊,社会科学に関する洋書478部728冊を一括寄贈された。旧人文科学研究所の蔵書は,東洋学に関し,漢籍では,奏疏・政書・地志等が主で,そのほかには調査資料類が多かった。

 以後,東方部では不足部門の補充につとめ,近代文献,明代文献ならびに地志の整備計画が進められ,最近では,中華人民共和国時期の新聞が多数収集された。これは,人民日報をはじめとする諸新聞の創刊号ないし発刊初期のものから,おおよそ1986年頃までのコレクションで,光明日報,工人日報,中国青年報,教師報,北京日報,東北日報,遼寧日報,内蒙古日報,解放日報,新華日報,湖北日報,湖南日報,南方日報,羊城日報,四川日報,雲南日報,新彊日報を含み,一部を有するものとしては,黒竜江日報,寧夏日報,山西日報,文匯報,大公報,世界経済導報がある。なお東方部には,「松本文庫」,「内藤文庫」,「矢野文庫」がある。「松本文庫」は,故京都大学名誉教授元東方文化研究所長松本文三郎博士の旧蔵書で,宗教学文献が多く,1948年3月に,和書3,389冊,漢籍6,471冊,洋書1,096冊を購入した。「内藤文庫」は,故京都大学名誉教授内藤虎次郎博士の旧蔵書で,満蒙関係資料を主とし,1952年3月に60部636冊,1953年3月に101部955冊を購入し,1959年3月には近代中国研究資料和書100部,漢籍45部,洋書2部271冊を購入した。「矢野文庫」は,故京都大学名誉教授矢野仁一博士が1944年「現代支那」研究班の代表者として蒐集された和漢洋書421部697冊を1958年1月に寄贈されたものである。

 図書目録は,すでに1934年,東方文化学院京都研究所時代に「漢籍簡目」を出版して以来,数年ごとに続補目録が編纂せられた。1949年の統合以後には,「村本文庫」,「中江文庫」のほか「松本文庫」,「内藤文庫」などの目録も出版され,また,「欧文書籍目録」も2度作られている。また旧人文科学研究所期に受入れた図書を収録したものとして,1973年1月に「京都大学人文科学研究所和漢図書目録(昭和14年10月-昭和25年3月)」,1974年3月に「京都大学人文科学研究所欧文図書目録(昭和14年10月-昭和25年3月)」を出版した。

 なかでも,1943年に出版された「東方文化研究所漢籍分類目録坿書名人名通検」は,漢籍の叢書本・単行本すべてを含み,厳密な研究の結果にもとづいて作られたもので,内外学界の需要きわめて多く,1945年には縮小再版を行ったほどである。その声価は20年にわたって続き,増補版の出現が各方面から渇望された。そこで旧人文科学研究所の蔵書のほか,統合以後増加した全漢籍を加えて,ほぼ同じ方針のもとに編纂されたのが,「京都大学人文科学研究所漢籍分類目録坿書名人名通検」であって,1963年,65年に刊行せられた。その後,いわゆる排架目録の体裁をもって,「京都大学人文科学研究所漢籍目録坿書名人名通検」が,1979年,80年に刊行せられ192,958冊の書物を収める。ただここでは旧来の目録で近人雑著部あるいは新学部と呼ばれていた部分に収められるべきものは省かれている。なお近年図書館業務は機械化時代に入りつつあり,本図書室も『学術情報ネットワーク』に参加し,1988年6月からは,受入れた和洋書を,端末機により目録作成し,「同センター・総合目録データベース」形成の一翼をになっている。

資料

 資料とは,本研究所が創立以来,購入または寄贈を受けた,器物,書籍,参考品,写真類をさし,管理上図書とは別個の取扱いがなされているものをいう。主なるものは,つぎのとおりである。

  • 殷代甲骨
    大部分は故上野精一氏旧蔵のもので,これに故黒川幸七氏,故橋本節哉氏の寄贈品を加えて総数3,600点に近い,世界有数の蒐集である。その中の3,246点が故貝塚茂樹氏の研究報告である「京都大学人文科学研究所蔵甲骨文字」図版冊上下(1959年)に収められ,本文冊(1960年)に釈文を録し,併せて索引(1968年)が刊行されている。
  • 考古美術参考品
    石器,青銅器,仏像,陶磁器の類で,主要なもの150点。雲岡,敦煌の仏像複製,漢唐の明器などには他に見られぬものがある。主として分館のホールおよび廊下の陳列ケースに収容されている。
  • 敦煌・トルファン古写本資料
    敦煌蔵経洞およびトルファンなど西域各地から発見された漢文・チベット文・ウイグル文等々の古写本で、スタイン蒐集、ペリオ蒐集、北京蒐集などがマイクロフィルム焼付写真として所蔵されている。
  • 考古美術資料
    主として中国の青銅器、陶磁器、石刻等に関する詳細な調査記録を保存するほか、雲岡・竜門石窟の現地調査資料、碑文の拓影をはじめ、1959年以来継続して行われたイラン・アフガニスタン・パキスタン等の調査資料は、下記のごとく莫大な量に上る。石刻資料のうちには、故内藤虎次郎博士や故桑原隲蔵博士旧蔵の拓本三千数百点が含まれている。

    資料名 内容 点数
    中国考古調査資料 測図・拓影・写真等 15,200点
    雲岡・竜門石窟調査資料 測図・拓影・写真等 5,600点
    中国石刻資料 拓影 10,000点
    中国絵画資料 写真 5,090点
    台北故宮博物院絵画資料 写真 2,200点
    日本考古資料 写真 5,150点
    イラン・アフガニスタン・パキスタン・インド考古資料 75,560点
  • 地理民族資料
    東方文化学院京都研究所の開設とともに、東亜大陸諸国彊域図の編纂にとりかかったため、その基礎資料としての地図蒐集を始めた。彊域図の完成後もこれはつづけられ、なかでも20世紀に入って作成された中国各地の大縮尺の詳密図は5,000点にのぼる。なお中国に関する地理、民俗資料写真50,000点がある。
  • 現代中国学術資料
    1974年11月、京都大学の招請に応じて来日した北京大学社会科学友好代表団(麻子英氏を代表とする8名)を、当研究所に迎えた際、寄贈を受けた刊行物。『北京大学学報(哲学社会科学版)』『長沙馬王堆一号漢墓』上・下をはじめとして、プロレタリア文化大革命から批林批孔運動に至る現代中国の学術動向を知るに足る貴重な資料が数多く含まれている。現在、人文情報学創新センター(旧称:東アジア人文情報学研究センター)に所蔵されている。